編集長のズボラ料理(535) 牛肉・アスパラ・セロリの炒め物
大学で「文章表現入門」という授業を、何年か担当した経験がある。受講生は20人前後なので、毎回課題を示して書いてもらい、自宅に持ち帰って読み、次の授業で気づいたことを述べて、作文を返していた。
「好きな食べ物か嫌いな食べ物」という課題は、毎年のように出した。書きやすいテーマだし、遊びを交えても成り立つので、学生も気楽に書けると思ったからだ。それに、僕も読むのがおもしろかったからだ。作文は概して、「嫌いな食べ物」の方が、文章に個性が出ていた。
「納豆と無縁の生活をこれからも過ごしていきます」「魚は骨がだめだ」「私は好き嫌いのプロです」「プリンは大好きなのに、ゼリーは許すことができない」「私はもう二度と、あのにっくき『サトイモの煮つけ』は口にしないと決意しました」「嫌いコレクション」「口に入れた瞬間に、古い物置き部屋を感じさせる匂いや味が口の中に広がる」「吐き気が押し寄せてきます」
「(トマト)ツルツルした舌ざわり、固いようで柔らかい食感、嚙みつぶしたときのにゅるにゅるなど、なにかと主張が強い」「小さい頃は『野菜を食べないと大きくなれないよ』と周りの大人に脅されたものですが、今身長180cmに伸びた私にもう、その脅しは効きません。しかし今では『野菜を食べないと早く死ぬよ』と脅されています」
うまい表現もあるし、笑えてくる書き方もあった。まさに「嫌いコレクション」。それは、とても嫌いだと言うことの現れだろう。
学生の取り上げた食べ物を、並べてみるのもおもしろかった。ある時の「嫌いな食べ物」リストは、次のようなものだった。
タマネギ3人、ネギ2人。以下は1人ずつで、アサリ、ギョウザ、ナス、ピーマン、ニラ、カキ、イクラ、ウニ、アワビ、ワサビ、ハバネロペッパーソース、シシトウ、ぜりー、グリーンピース、シイタケ、セロリ、シュンギク、フキノトウ、卵、、すし。
セロリは毎年、1人は挙げる。メンソレータムのような強い香りのせいだろう。僕も食べ始めたのは、いい歳になってからだ。京都府長岡京市でラーメンを食べた時、細切りのセロリが入っていて、ビックリしたことがある。セロリに関してはその程度だったが、最近はその香りとシャキシャキ感に引き寄せられるから、大人の食べ物だったということだろう。
牛肉の切り落としを使う。アスパラは皮の固い部分をピーラーで削り、サッとゆでて取り出す。セロリは筋のある面をピーラーでそぎ落とし、細長く斜め切りのする。フイパンに油をひいて、これらを炒める。味付けはだしの素、砂糖、酒、しょうゆ。
嫌いリストを見ると、野菜が多い。僕もそうだったなあ。それと作文も嫌いだった。それなのに、凝りもせず駄文を書いている不思議さ。(梶川伸)2021.08.21
更新日時 2021/08/21