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編集長のズボラ料理(412) 豆腐のカニみそ焼き

ネギや焼いた後で乗せてもいい

 高松に住んでいたころ、「活」という店で酒を飲んだ。大将と気が合ったからだ。
 大将は瀬戸内の魚と地元の料理にこだわりを持っていた。春はサワラ。漢字では魚偏に春と書く。「讃岐ではサワラを珍重する。田植えの時期に、お嫁さんが実家の農作業の手伝いに里帰りをする。その時、サワラを1尾持たせる。その片身を刺身にして食べる。戻る時には、残った片身をすしにして持って帰る」。それほどサワラと讃岐の関係は深いのだ、と語る。
 このように話は面白い。しかし、地元愛が強すぎるので、話が止まらず、わずらわしいところがある。
 大阪に変わってしばらくの間、毎年サワラのみそ漬けが送られてきた。僕の友人のお母さんがイカナゴのくぎ煮の名人で、作ってもらった一部を大将に送っていた。イカナゴの親の「ふるせ」も煮るが、これはなかなか難しいらしく、大将は感激し、サワラのみそ漬けはそのお礼だった。
 僕にとっては、いただきものくぎ煮で、みそ漬けをもらえるのだから、これほどいいことはない。わらしべ長者や「エビでタイ」どころではない。何せ、元手がただだから。
 楽しみにサワラを待っていると、なかなか届かない。忘れてころにやってくる。聞けば、いいサワラが手に入るまで待って、それからみそ漬けにするから、時間がかかるのだという。この辺がうるさいのである。
 大将は若いころ、料理修行で全国の料理を食べまくったという。山陰では、1杯5万円の松葉ガニを食べたとか。「松葉がには、殻の大きさが〇〇センチ以上のものを言う」と説明する。この辺がうるさいのである。うるさいから、何センチか忘れてしまった。
 そんな高いカニは食べれるはずがない。元同僚に紹介してもらった日本海の民宿に泊まって、カニ2杯つきで1万8000円だった時がある。この時は、「これが最後のカニ」と何度も言い聞かせて、エリを正して食べた。
 お土産にカニを買う根性と財力がない。そこで、カニみそでごまかす。これないら何とかなる。
 日常生活ではどうか。何と、スーパーで売っているカニみその瓶詰めは安い。これなら何とかなる。カニみそだけではなく、いろんなものが入っているかもしれないが、本当のカニみそを食べたのは数えるほどだから、味の違いなど分かりはしないから、これで十分。
 豆腐を水切りして、短冊に切る。オーブンで片面を焼き、1度取り出す。反対の面に軽くオリーブオイルをたらし、その上のカニみそを塗り、刻みネギを振って、この面を上にして焼く。
 冬の日本海を思い浮かべながら食べる。しかし、大将のことは思い浮かべないようにする。邪道な食べ方をすると、うるさいから。(梶川伸)2020.05.30

更新日時 2020/05/30


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