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編集長のズボラ料理(367) 焼きナスと生ハムのトリュフオイル

トリュフオイルでなくても、オリーブオイルでもアマニ油でも良い

 トリュフはキノコの一種で、大変貴重らしい。第一、「リュ」という響きが、上品で高価な印象を与えるではないか。キャビア、フォアグラとともに、世界の三大珍味と言われている。
 3つとも、僕にはあまり縁がないが、フォアグラだけは時々口にした時期がある。フランス料理店ではない。ナイフとフォークではない。横文字のソースをかけるわけでもなかった。
 その店は、阪急宝塚線の川西能勢口駅のそばの、ガード下のような場所にあった。庶民的で小さなお好み焼き屋さん。20ほど前のことで、今はもうないだろうが。
 フォアグラのお好みは、ほかのメニューに比べればちょっと高く、1000円を少し超していた。店の主人が鉄板で焼いてくれるのだが、フォアグラを輪切りにしたものを結構たくさん乗せる。フライ返しで返すと、フォアグラの焼けたに濃いが香ばしかった。
 はしで食べる。かけるのは凝ったソースではなく、しょうゆだった。スタイリッシュではないので、遠慮せずにバクバク食べた。これが大阪の威力である。
 「良い仕入れルートを持っている」。店の主人は話していた。「フレンチのシェフも食べに来る」。自慢や自信を、自分の方からしゃべるサービス精神。これもきわめて。大阪人っぽいではないか。
 では、トリュフ。香りが特徴とは知っている。ありかは、犬や豚の嗅覚で探すというもっともらしい話も知ってはいる。しかし、お好み焼きには入っていない。大阪での一般性は、粉もんに使うかどうかにかかっている。だからなじみが薄く、何に使えばいいのか、大阪人の9割はわからない。
 友人のもとにヨーロッパから、小さな瓶入りの黒トリュフオイルと白トリュフオイルが贈られてきた。高いものに違いない。しかし、使い道がわからないからと言って、僕に回っていた。
 僕も知らないが、もらえるものはもらう。瓶の栓を開けて、びっくらこいた。強烈な香りがした。犬や豚でなくても、風邪で鼻づまりの人間でも、すぐに分かる。大阪市の近鉄鶴橋駅で、ドアが開いた時の焼き肉の香りの、少なくとも10倍の濃さがある。冷房のために締め切った部屋で栓を開けようものなら、香りの海でおぼれそうになる。
 焼きナスを作り、食べやすい大きさに切る。生ハムもカットする。トリュフオイルで和え、刻んだ大葉を散らし、冷蔵庫で冷やして食べる。いや、冷やしておいてから、トリュフオイルで和えた方がいい。そうでないと、冷蔵庫の中がトリュフの森になってしまう。(梶川伸)2019.08.22
 

更新日時 2019/08/22


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