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編集長のズボラ料理(359) 卵の照り焼き

半熟状態で形をつくるのがポイント

 卵料理は技術だと思う。ホテルの朝食がバイキングの場合、シェフがその場でオムレツを作る。その前には列ができる。
 見れば簡単ではないか。フライパンに溶き卵を落とし、最後は紡錘形(ぼうすいいけい)に整える。技と言えば、フライパンを持つ方の手の手首を、トントンたたくだけのことだ。
 僕たちの世代は、たたくのは結構得意なのだ。小さいころに、「母さんお肩をたたきましょう♪」の歌に合せて、肩たたきをした。自転車と同じ様に、幼いころに体で覚えたものは、忘れない。
 新聞社に勤めたので、警察用語の隠語を覚えた。強盗は「たたき」だと、先輩にたたきこまれた。幸い定年まで、肩たたきはなかった。このあたりは、「たたく」からの連想で、何ら意味はない。
 友人の家でオムライスを食べることになり、僕が作り手を買って出た。ケッチャプライスを皿に盛っておいて、その上にトロトロオムレツを乗せる簡単作戦。最後に包丁でオムレツに切れ目を入れて、内側の柔らかい部分がドロッとライスを包む、そんなイメージトレーニングもした。
 トントン拍子に行くとたかをくくっていたら、紡錘形にする時になって、トントンが通じない。焦れば焦るほど丸まっていかない。卵はドンドン固くなる。仕方ないいから半分に折って、ライスの乗せた。もやは、包丁の出番はない。結局、ケッチャプライスと卵焼きの二重構造で、卵料理には技が必要だと思い知った。
 その点、卵かけご飯は簡単だ。遍路旅の先達として昼食場所に、愛媛県四国中央市の「熊福」を選んだ。養鶏場が直営している。卵かけご飯は460円。卵はテーブルの上に盛ってあって、食べ放題。
 しかし、ちょっとシンプルすぎるかと思って、オムレツ定食にした。640円で、卵食べ放題の卵かけご飯にオムレツがつく。1人Ⅰ人に丁寧にオムレツを作ってくれるのだが、食べる段になると卵かけご飯の方が人気だった。僕もそうで、卵をお代わりしたが、2つまでだった。460円の方にすればよかった、と反省しきり。
 卵かけご飯は料理なのか、という料理史上、いまだに結論が出ていない命題がある。そこで、火を入れることにした。フライパンに卵3つを割り入れ、熱しながら白身の部分を黄身に被せるようにして、紡錘形にしていく。しょうゆ、砂糖、みりんを混ぜた照り焼きのたれを作っておいて、卵にかけて焼き、半熟状態で取り出す。これがまた、技がいる。半熟は外見上はわからないからだ。失敗したら、何も説明せずにテーブルに置く。半熟に触れないで。(梶川伸)2019.07.08

更新日時 2019/07/08


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