心にしみる一言(172) 人に話せる悩みなら楽なこっちゃ。そんな人は、歩きゃあせん。
◇一言◇
人に話せる悩みなら楽なこっちゃ。そんな人は、歩きゃあせん。
◇本文◇
1995年1月に阪神大震災があり、11月に初めての遍路に出た。自転車だった。50歳という人生の転機を控えた時期のうえ、震災取材にかかわて命というもの考えたことも、心の根底にあった。
何も知らずに出かけたので、1番札所・霊山寺(りょうぜんじ)の芳村超全住職(当時)に教えを請うた。話の上手な人だった。不安の中での出発だったが、話を聞いてホッとしたことがあった。空海が唐に留学した時のことを、「虚往実帰」という言葉で表現したというのだ。
「むなしゅうゆきて、みちてかえる」という読み下しも覚えている。「何も望むことなく唐にに行ったが、たくさんのものを持って帰った」と、自分勝手に解釈し、これで不安が吹き飛んだ。
いろいろな話を聞かしてもらい、その中に取り上げた言葉があった。歩き遍路について語った言葉だった。
確かに、歩きいているお遍路さんの中には、重たいものを心の底に沈めている人がいる。だから、「なぜ遍路を?と聞かない」という不文律も、四国を回っている最中に身につけた。
ある時、托鉢をしながら回っているお遍路さんに出会った。不文律をあえて破って、その理由を聞いてみた。そうすると、次の言葉が返ってきた。「話したら、私の思いを引き受けてくれますか」
(梶川伸)2018.11.27
更新日時 2018/11/27