編集長のズボラ料理(190) スクランブルエッグ
旅行に行くと、夕ご飯には2つの選択肢がある。外に食べに行くか、宿で食べるか。
僕はどちらかというと、外で食べる派だ。料理に凝った高い宿に泊まることがないこともあって、宿の夕食は何となく想像できるからだ。和食なら、刺し身と天ぷら、陶板焼きあたりがメーンで、なぜか茶碗蒸しが必ずついている。特色が出るとすれば刺し身だが、マグロ、イカ、ハマチかカンパチがお決まりで、地のものは遠慮がちに皿のすみに乗っている。
中には地のものをうまく使っていて楽しい宿もある。遍路旅の宿で例を挙げると……。アマゴずし、手長エビのから揚げ、チャンバラ貝の煮物、あまり思い出さない。ただ牛肉とゴボウの赤わいん蒸しなど、遍路の夜に出た料理を臆面(おくめん)もなくズボラ料理に取り込んでい僕なので、偉そうに言える立場ではないが。
遍路旅で愛媛県宇和島市に泊まった時は、地元のものを食べるために、わざわざホテルに近い「ほずみ亭」を夕食場所にした。フカ(サメ)の湯ざらし、タチウオを竹に巻いて焼いたもの、コンニャクとでんぶの福麺(ふくめん)、おからをご飯に見立てた手まりずし。こうなると、大阪を離れた雰囲気に包まれる。
宿の朝食はどうか。和定食もたいていは想定内に収まる。小さな焼き魚、豆腐、それに卵。ほかに、ノリやらカマボコやら梅干しやらがつくが、それは添え物である。
メーン3つのうち、卵が曲者である。ゆで卵か生卵か、食べる前に正しい判定をしなければならない。ゆで卵と判断して皮をむき始め、生卵がドロッとでてきたら悲劇で、朝の主役の1つを無にすることになる。この場合、宿の係は「代わりをお持ちしましょうか」などとは言わない。
ビジネスホテルのバイキング形式の場合、卵にはオムレツがラインナップに加わる。たいていはコックが会場で焼いているので、そこへ取りに行く。具を選ぶ。チーズとベーコン。あまり慣れていないので、無難なものにする。
もうちょっと高級なホテルになると、卵もランクが上がって、スクランブルエッグとなるらしい。「らしい」とつけたのは、そんなホテルには泊まらないからだ。
料理番組でスクランブルエッグを作っていた。すると進行役かゲストだったか忘れたが、「ホテルの朝食ですね」と話していた。やっぱりそうなのだ。僕は泊まったことはないけど。
家で試しに作ってみた。すると娘が「ホテルの朝食じゃない」と、さも知ってるふりをする。泊まったこともないくせに。
シメジやマイタケといったキノコを適当に切り、ベーコンも小さく切って、バターとオリーブオイルで炒める。味付けは塩、コショウ。炒め終わったら、いったん容器に取り上げる。卵4個か5個をよく溶く。フライパンにバターを多めに入れて溶かし、卵を入れて弱火で加熱する。フライパンに接触している部分から固まり始めるので、固まらないようにかき混ぜる。全体に固身が出てきたら生クリームを入れてさらにかき混ぜ、フワフワ状態の固さで皿に入れ、上に炒めておいたキノコを乗せる。
料理番組のレシピなど全く覚えてないが、こんなもんだろう。何せ、スクランブルエッグが出るようなホテルに泊まったことがないのだから、実物はみたことがないのだから。(梶川伸)
更新日時 2016/06/08