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「若者に戦争の実態伝えたい」 豊中・神谷さん小説を出版

「単なる戦記にしたくなかったので、学生元兵士の対話形式にした」という神谷さん。若者の視点にリアリティーを持たせるため、実際の学生にも加筆協力してもらったという

 豊中市在住で元毎日新聞記者の神谷周孝(のりたか)さんが、太平洋戦争帰還兵の証言を元にした小説「若者に捧げる戦争教科書 元兵士と学生の対話」(文庫判256ページ、672円、文芸社)を出版した。南方戦線の帰還兵が、戦場での凄惨(せいさん)な体験と罪を学生に告白していくストーリー。飢餓と死の恐怖から極限状態に陥った日本兵の残虐行為、大本営の無謀な戦略、軍部が押しつけた「戦陣訓」など、日本人が忘れたいと思う戦争の真実がつづられている。
 物語は93歳の帰還兵、山崎重士郎の入院先に4人の大学生が訪れる場面から始まる。自らの死を意識した山崎は戦争についてあまりに無知な学生に、少しずつ実体験を吐露していく。山崎のモデルとなったのは、神谷さんが毎日新聞社会部に在籍していた1982年に偶然手に入れた帰還兵の証言記だ。1万2000字に及ぶガリ版刷りには、日本から遠く離れたジャングルに置き去りにされて餓死していく兵士や、わずかな食料をめぐって味方同士で殺し合い、現地人を殺し、果ては人肉を食らう「獣の道」がつづられていた。
 神谷さんは「東南アジアへの加害はあまり伝承されていない。一部を新聞で紹介したことはあったが、全文を資料として残す手法を模索していた」という。2012年に大病を患ったこともあり、「年長者の義務として歴史を語り継ぐ」と出版を決意した。「多くの若者は戦争の実態を知らず、軍部の狂気についても教わらない。日本の歴史にそんな空白を作っていいのか。それでどうやって外国と付き合うのか。この本が真実の歴史を総括するきっかけになれば」と願っている。(早川方子)

更新日時 2013/11/13