富山県上市町 雪国が魅せる、昔暮らしの旅
真冬には2メートルを超す積雪となる、富山県上市(かみいち)町。霊峰・剱岳が見下ろす街は、2012年に公開された映画「おおかみこどもの雨と雪」の舞台モデルにもなった、昔ながらの日本の風景が残る街でもある。まだ雪の残るひな祭りの季節に、そこに暮らす人たちと触れ合い、初めてなのになぜか懐かしい、あったかな気持ちで満たされる旅をしてみませんか?
上市を訪れたのは、12月中旬だった。大阪から約3時間半、特急サンダーバードで富山へ向かい、そこから富山地方鉄道に乗り換え、さらに25分。上市駅に到着すると、ホームは既に数十センチの積雪だった。改札を出ると、上市町産業課商工観光班の澤井俊哉さんと鹿田智絵さん、そして本紙でコラム「自然で遊ぼう」を連載する池田市在住のネイチャーガイド・木村太郎さんが出迎えてくれた。
「すごい雪でしょう。上市でも、12月にこれだけ積もるのは珍しいんですよ」
澤井さんが笑いかける。上市で観光コンサルタントも務める木村さんとの縁で、マチゴトの読者に町を紹介し、パックツアーとはひと味違う旅を企画しようという話が出てから数カ月。上市はひと足早い豪雪体験で、マチゴトを熱烈歓迎してくれたようだ。
■泊まる旅館は“むかし”ミュージアム
初めに訪れたのは、観光旅館・湯神子(ゆのみこ)温泉だ。若女将の京田和代さんに話を聞く。しかし料理や泉質のことよりも、ロビーや廊下に並ぶたくさんの人形が気になってしまう。温かさを感じさせる人形は、ほとんどが女将さんの手作りという。
よく見ると、長持や背負子(しょいこ)といった、最近は見ることもない道具も、オブジェとなって旅館を彩っている。廃校になった小学校からもらったという机もあった。それに刻まれた傷を見ていると、自分が使っていたものでもないのに、子ども時代の光景が浮かんでくる。
これだけのものがあるのに、ただ泊まるだけではもったいない。人形作りを体験したり、昔の道具に触れる時間を、スケジュールに組み込むことにした。
■お不動さんで上市の味覚を満喫
次に向かったのは、奈良時代の僧・行基によって創建されたと伝わる大岩山日石寺だ。山手にあるため、積雪量もグンと増す。入り口の百段坂は、高さ約1メートルの手すりが完全に埋もれている状態だ。長靴装備の澤井さんが、先行して雪を踏み固めてくれる。旅行当日は、1人に1人ずつ地元住民サポーターが付く。「一緒に手をつないで歩きますから、お年寄りにも安心して上市の雪を楽しんでもらえると思いますよ」
氷点下に近い気温の中、汗をにじませ上った先で出迎えてくれたのは、山門の脇に建つ創業120年の老舗旅館・だんごやの滝川典子さん。ここでは2日目の昼食をお願いしており、地元の食材をふんだんに使った、ひな祭りらしいものになる。
「大したもんはないけどねえ」
そう言って滝川さんが出してくれたのは、実に大したもんだった。日石寺名物のそうめんを中心に、上市特産のサトイモを使った白和え、近くの山で採った山菜は煮物やおひたし、漬け物になっている。昆布でしめたワラビは初めての味。「お米も上市産のコシヒカリ。上市は『コシヒカリの父』、杉谷文之さんの生誕地でもあるんです」。滝川さんが「おかわり、遠慮なくどうぞ」とほほ笑んだ。
腹を満たしたところで、日石寺を参拝した。本尊は1枚岩から掘り出した、高さ約3.2メートルの不動明王像。全国で5カ所しかない、国の重要文化財に指定された磨崖仏だ(ほかに国宝が1カ所)。雪で外の音が消され、凛(りん)とした空気が漂う中、正面から向かい合う。
「厳しい顔ですが、人によっては優しく慈悲深い顔にも見えるそうです」という澤井さんの言葉を聞き、改めて仰ぎ見るが、やはり厳しい表情だ。まだまだ人生経験が足りないということだろうか。当日、護摩祈祷(ごまきとう)の灯(あか)りに照らされた不動明王の姿は、より荘厳さを増した姿になるのだろう。
■雪国の達人に学ぶ“ 雪遊び ”
最後に訪れたのは、西種地区。上市でも最も雪が多い地区だ。そこの古民家で、上市流のひな祭りや、雪国ならではの暮らしの知恵を体験する予定だ。
案内人が「子どものころからやってる、当たり前のこと」と話すものが、旅人には新鮮で面白い。雪国の達人である彼らが語る雪遊びや、意外な防寒方法といった暮らしの知恵は、聞くだけでワクワクさせられるエンターテイメントなのだ。逆に「大阪ではどうなの?」と聞かれるかもしれないが、そうした双方向の異文化交流こそ、旅の真髄だ。(礒野健一)
【旅行スケジュール】
3月2日(土)午前9時半ごろ大阪駅発…<サンダーバード>…富山駅…電鉄富山駅…上市駅(案内人と合流し、以降は町内を車で移動)…上市町西種地区の古民家で、上市流ひな祭り体験…湯神子温泉(泊)
3月3日(日)湯神子温泉で、ひな祭りのクラフト体験…日石寺(見学と護摩祈祷)…地元食材のランチ…味蔵(地元物産直売所)…上市駅…電鉄富山駅…午後3時半ごろ富山駅発…<サンダーバード>…午後6時半ごろ大阪駅着
【費用】
3万7000円
【定員】
10人
【募集要項】
毎日新聞旅行に電話06-6346-8800(平日午前10時~午後6時)。もしくはマチゴト編集部に参加者の名前と年齢、連絡先を明記しメール(info-toyonakaikeda@machigoto.jp)で申し込む。
更新日時 2013/01/16