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寺の花ものがたり(85) 西明寺(滋賀県甲良町)椿=12月下旬~4月上旬 

2006年2月10日撮影

 寺は雪をかぶっていた。住職の中野英勝さんは、長靴に毛糸の帽子姿だった。「鈴鹿山系の山すそなので、下よりは3~4度低い。下駄だと、歯の間に雪が詰まって歩けない。80センチの積雪を経験したこともある」と言う。
 椿(つばき)は雪の中で、ひっそりと咲いていた。ポツポツとだから、案内してもらわないと、簡単には探せない。
 赤い椿は、小さな花びらを少しだけ開いていた。三重塔のそばには白い椿。寒さに耐えるように、固く身固めていた。白い雪、白い花。重なった花びらの先に、ほんのり見える黄色の花芯(かしん)が愛らしい。
 もともとは藪(やぶ)椿が生えていた。樹齢200年以上の古木もある。いまは玉の浦、月照、白侘助(わびすけ)、紅侘助などの木もある。「祖母が花好きで、新しく植えた」と言う。数は全部で100本前後。「四季を通じて花を絶やしたくない」という考えが根本にあり、数が多いわけではない。
 四季を彩る木で、紅葉だけは多く、1000本を数える。湖東三山の1つで、自然に溶け込んだ紅葉として人気を集める。「11月23日(勤労感謝の日)が晴れると、1万~2万人が訪れることがある」と言う。
 にぎわいの秋とは対照的に、冬は訪れる人が少ない。1日10人くらいらしい。しかし、寺には別の忙しさがある。屋根の雪下ろしに参道の除雪。「降って1日目の雪は軽い。しかし、次第に氷になって重くなる」。一輪車を使った雪のかき出しは、一日仕事である。
 本堂で話をうかがった。ストーブにあたりながらでも、足先が冷たくなる。1時間ほどの間に、お参りの人はいなかった。
 「冬の寺はりんとしている」と表現する。椿も厳しい自然に溶け込んで、りんとしていた。(梶川伸)

◇西明寺(さいみょうじ)◇
 滋賀県犬上郡甲良(こうら)町池寺26。0749-38-4008。近江鉄道尼子駅からバスで金屋下車(便は少ない)、徒歩20分。入山有料。平安時代、三修上人による開創と伝えられる。本堂と三重塔は国宝。本尊の薬師如来や釈迦(しゃか)如来など重文。秋から春まで咲く不断桜もある。
=2006年2月23日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)

更新日時 2017/02/14


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