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編集長のズボラ料理(242) ミニトマトの豚肉巻き焼き

 巻き。「巻く」の名詞形である。食べるにしても作るにしても、巻きは便利だ。けむに巻くような話で申し訳ないが。
 巻けば食べやすくなる。その代表が巻きずしとロールケーキではないか。節分の恵方巻きは、ノリ屋さんの作戦だったようだが、全国的に定着したのは、その簡便性のためだと思う。その年の恵方を向いて立ち、言葉を発することなく黙々と食べる。巻きずしが口にあれば、しゃべること自体が難しいが、それも折り込みずみの作戦なのだ。
 これが握りずしだとどうなるか。しょうゆ差しと皿がいるっからやっかいだ。片手でにぎりを持ち、もう一方の手でしょうゆ差しと皿を持つのは不可能に近い。もし持てたとして、どうすればしょうゆを皿に注ぐのか。検討に検討を重ねた結果、次の方法しかない。
 まず、8貫入りのすしパックから1貫取り出して左手の親指と人差し指でつまみ、恵方に向かって立つ。左手のたなごころの上に、小さな皿を乗せる。右手にしょうゆ差しを持ち、皿にしょうゆを注ぐ。すしはいったん軽く唇ではさみ、自由になった左手の親指と人差し指を使って、しょうゆ差しをつかむ直す。自由になった右手ですしを口から取り、左手にあるしょうゆをつけて食べる。
 こんな手順が必要だが、さらに難しい点がある。にぎり1貫だけではお腹がすく。ならば8貫全部が食べたい時はどうするか。すしのパックを手と口のどこかで保持しなければいけない。そんな技は、阪神百貨店の地下の立ち食いずしに100回通った人でも持っていないはずだ。
 3年前、友人の車に遊び仲間5人が乗って、兵庫県多可町のマイスター工房八千代に行ったことがある。そこは道の駅のような場所で、目的は巻きずしを1本ずつ買うことだった。
 到着したのは午前10時半前。開店から30分ほどだが、整理券を渡された。110番台だった。店は小さく、1度にたくさんが入れないので、10人ずつ区切っての入店する。僕らは約20分待って、店に入った。
 巻きずしは当時、1本480円の太巻き。具はカンピョウ、シイタケ、高野豆腐、厚焼き卵、キュウリ。具は大きく、ご飯は少ない。確かに良い巻きずしだが、大阪から出かけていくほどのことか、と自分でも思いながら、立ち食い、丸かぶりをした。これが座って食べるようなもの、あるいはナイフとフォークを使いようなものだったら、わざわざ行かなかったかもしれない。
 ロールケーキにも似たような傾向がある。僕は豊中市のエフラットのロールケーキが好きだ。仲間で買って、食べようと思い、場所を探したが、結局は参拝を兼ねて池田市の久安寺に行って食べた。ロールケーキはちぎって食べられるし、フォークもいらないし、紅茶がなくてもいい。そのうえ、寺でも食べられる。
 料理を作ろうとした時、何を作ろうか迷う時がある。迷った時には巻く。これがズボラの原則の1つになっている。前々回240回の「サーモンとアボカドの春巻き」も巻いた。221回の「ブロッコリーの豚肉巻き焼き」も巻いた。今回は221回のちょっとした変形に過ぎない。
 ミニトマトに豚肉を巻く。豚肉の端には、溶いたカタクリ粉をつけて“のりづけ”する。塩、コショウをふり、油をひいたフライパンで転がしながら焼く。トマトを柔らかくするため、途中でふたをして蒸し焼きにする。豚肉は巻き物の王様だと思う。(梶川伸)2017.02.02

更新日時 2017/02/02