山中史郎さん 茶畑オーナー制や日本文化の復権
「日常の中で当たり前にあるものを疑ってみる。そこから見えてくる新たな価値観に気付けば、きっと今よりもっと面白い風景が浮かんでくるはず」
そう話すのは、豊中市在住のデザイナー・山中史郎さんだ。池田市で生まれ育ち、大学で映像美術を学んだ後、パリへ渡った。「向こうは個人としてのアイデンティティを追求してくる。当時は日本の文化なんてつまんないと思っていたけど、自分のことを見つめ直すと、やはり日本がそこにあった」。それなら異国の地でやる必要もないと、1年後には帰国してデザイン事務所「ハイカルチャー」を立ち上げ活動を始めた。
2009年から奈良県月ヶ瀬村のタツミ茶園とともに始めたオーガニック茶園のオーナー制度は、冒頭の考え方が根底にある。農産物は農協を通じた販売が当たり前の中で、消費者と直接つながる形を模索した。そして行き着いたのが、パッケージされたお茶を売るのではなく、茶園のある風景そのものに価値を見出し、茶摘みや製茶の過程も楽しむという「物語」を買ってもらうというものだった。「東日本大震災や原発事故の影響で、日本の農業のあり方が注目されている。大きく価値観が変わったのだと思う」。このオーナー制度は2011年のグッドデザイン賞を受賞した。
同じコンセプトで山中さんが取り組むのが、ふんどしの復権だ。数年前、下半身が蒸れ、かゆくて仕方なかった山中さんに、奥さんが冗談で「ふんどしでもはいてみれば」と言ったことが始まりだ。「はいてみたら一週間でかゆみが消えた。すぐに持っていたパンツを捨て、以来毎日ふんどし」という。そしてこの良さを忘れた日本人を憂い、同時に「かっこいい」と思われるブランディングをして普及をさせたいと考えた。立ち上げたブランド名は「KUROTENGU」。新しいはき方を提案するパンフレットも制作した。
ふんどしに特化したファッションショーも開催した。「冒頭でブリーフの遺影を持ったモデルが歩くんですが、要はそれがやりたかっただけ」と笑うが、新たな見付けた価値観を、誰にでもわかるようにデザインするという考え方は、オーナー茶園と通じる。
今は茶園と同じシステムを、ぶどう農家とともにワインでもやろうと取り組んでいる。「デザインは目に見えるものだけじゃない。何かを示し、暮らしを豊かにするものがデザイン」と話す山中さんの価値観は、皆をひきつける。(礒野健一)
更新日時 2012/05/10