中村・大阪音大学長「音楽を核とした社会人に」
「音楽大学の出身であることは、一般企業の就職には不利でしょうか」
大阪音楽大学(豊中市庄内幸町1)の学生サロンで、中村孝義学長は就職活動中の学生から質問を受けた。「不利ではない。むしろ、音楽に情熱を注いできた4年間に培った忍耐力や集中力、発想力をアピールできるではないか」と答えた。学生はその後、一般企業から内定を受けることができた。
大阪音楽大学は1915年、音楽教育者、永井幸次さんによって開校した西日本初の音楽学校だ。ドイツ・バイエルン国立歌劇場の専属ソプラノ歌手、中村恵理さんやシンガーソングライターのaikoさんなど、第一線で活躍する音楽家のほか、ゲーム業界などさまざまな分野で活躍する“音楽人”を世に送り出してきた。
「法学部の卒業生がみな法曹界に入るわけではないように、音楽大学の卒業生がみな音楽家を目指す必要はない。音楽を核とした社会人――音楽人になることが大切だ」
中村学長のいう“核”とは、大学時代に音楽に集中することで得る忍耐力や集中力、そして達成感のことを指す。個人レッスンが中心の濃密な授業、毎年開かれる学生オペラの上演やオーケストラの演奏会など、1つのことに集中し、仲間と同じ目標を掲げて努力する機会は、音楽大学の方が一般大学よりはるかに多い。「何かをやり遂げた達成感、努力の成果を出す経験は、どんな仕事にも通じる貴重なものです。そのことを学生にはもっと自覚してほしいですね」と中村学長は胸を張る。
学生が社会で自身をもっとアピールできるよう、大阪音楽大学は今年から「日本語ライティング支援」をスタートさせた。音楽大学で文章を学ぶというユニークなプログラムだが、これはドイツ留学経験のある中村学長も一押しだ。「言葉がなければ、あなたは存在しないのと同じ」というドイツ社会で、自分の考えや思いを的確な言葉で正確に伝えることの重要性を学んだ。「文章でも音楽でも、他人に何かを伝えるには明確なイメージが必要です。理解していないこと、ぼやけたイメージは、言葉や音に置き換えることはできない」と中村学長は語る。文章力をつければ音楽力も相乗的に伸びるという狙いもある。
2015年の創立100周年に向け、中村学長はライティング支援のほか、さまざまな新プログラムの準備に取り掛かっている。「音楽大学は音楽家を育てるだけの場所ではない。もっと大きな可能性を秘めているのだと、社会に知らせなくては」と顔を輝かせた。(早川方子)
更新日時 2011/11/03