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見せ方と保存性を両立 逸翁美術館、細心の心遣い

巻物は紙の巻き癖があるため、慎重に広げられる。写真は江戸時代に描かれた竹取物語絵巻

 阪急の創始者・小林一三(逸翁)のコレクションを中心に、さまざまな展覧会を企画する池田市栄本町の逸翁美術館は、9月17日から秋季展「絵巻 大江山酒呑童子・芦引絵の世界」を開催している。重要文化財である「大江山絵詞」をはじめ、南北朝~江戸時代にかけて描かれた鮮やかな絵巻をじっくり見るまたとない機会だが、その展示には細心の注意が払われている。

 まずは温度と湿度の調整だ。学芸員の宮井肖佳(はやか)さんは「温度は20度、湿度は60%がベスト。人間にとって最も過ごしやすい環境が、美術品の保存にも適した環境」と話す。展示ケースは密閉性が高いため、期間中は空気の入れ換えをすることもない。また、照明で変色する可能性もあるため、基本的に暗めの展示になる。「説明パネル作りで使った接着剤も、間違ったものを使えば長期間の展示で徐々に揮発していき、それが変色の原因になることもある」という。

 秋季展ではサントリー美術館(東京都港区)と徳川美術館(名古屋市東区)の所蔵品も特別展示される。美術品の運搬は専門業者があたり、運搬前と運搬後に、貸し出し、借り受けの両美術館関係者が立ち会い、損傷の有無を確認する。

 美術運搬専門会社、ヤマトロジスティクスで10年のキャリアを持つ井上憲昭さんは「慎重さも必要だが、外気にあたって変化することもあるので、迅速さも求められる。温度差のある夏と冬は特に大変」と話した。何よりも経験がものをいう仕事で、知識だけでなく実際に美術品に触れて得られる感覚も重要となる。

 横に長くなる絵巻物は、見せ場となる部分のみ広げて展示されることも多いが、今回はなるべく多くの部分を見てもらおうと、スペースいっぱいを使った展示にもなっている。(礒野健一)

逸翁美術館 大江山絵詞 酒呑童子 芦引絵

更新日時 2011/09/21


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